インドネシア人介護士の受け入れ実務|文化・時間感覚・コミュニケーションのコツ
介護業界における人手不足が年々深刻化する中、その解決策として注目を集めているのがインドネシアからの特定技能人材です。出入国在留管理庁の統計によれば、2024年12月末時点で特定技能「介護」分野の外国人は44,367人に達しており、その中でもインドネシア人が国籍別で最多を占めています。厚生労働省の推計では、2026年度には約240万人、2040年度には約272万人の介護職員が必要とされており、現状からさらに数十万人規模の人材確保が急務となっています。本記事では、介護施設経営者・人事担当者の方々に向けて、インドネシア人特定技能人材の特徴から採用の具体的な流れ、受け入れ後の定着ノウハウまでを網羅的に解説します。
この記事のポイントは?
インドネシア人が特定技能「介護」で最多を占める理由
特定技能制度が2019年4月に創設されて以降、介護分野で働く外国人は急増を続けています。その中でもインドネシア人材は目覚ましい伸びを見せており、2024年6月時点で介護分野における特定技能外国人のうち約9,760人がインドネシア国籍となっています。ベトナムやミャンマーを抑え、介護分野では国籍別で最も多い数字です。なぜインドネシア人材がこれほどまでに介護業界から支持されているのでしょうか。その背景には、インドネシア独自の国民性や文化的特性、そして日本との親和性があります。
介護職に適した国民性「ゴトン・ロヨン」の精神
インドネシアには「ゴトン・ロヨン(Gotong Royong)」という相互扶助の精神が深く根付いています。これは「困っている人がいたら助け合う」という価値観であり、家庭や地域社会の中で自然と育まれてきた文化です。インドネシアでは三世代が同居する大家族が一般的であり、家庭内で高齢者を敬い、自然と介助する習慣が身についています。この文化的背景は、日本の介護現場で求められるホスピタリティ精神と非常に親和性が高いとされています。
大阪府内の特別養護老人ホームでは、インドネシア人介護士のスリさん(仮名)が入職2年目で夜勤リーダーを任されるまでに成長した事例があります。施設長によれば「利用者様への細やかな気配りが自然にできる。他の職員も見習うべき点が多い」との評価を受けているそうです。このように、インドネシア人材の持つ「思いやり」の心は、介護現場で即座に活きる強みとなっています。
若く意欲的な労働力が豊富
インドネシアは人口約2億7,000万人を擁する東南アジア最大の国であり、その人口の約50%が30歳以下という非常に若い国です。体力が求められる介護業界において、若い労働力が豊富に存在することは大きなアドバンテージとなります。日本で働くことへの意欲も高く、特定技能試験の受験者数は年々増加傾向にあります。インドネシア国内での介護技能評価試験受験者は、制度開始から約4年間で1万人を突破しました。介護日本語評価試験の合格率も約78%と高水準を維持しており、日本での就労に向けて真剣に準備している人材が多いことがうかがえます。
日本語習得に有利な言語特性
インドネシア語と日本語は、発音体系に類似点があるとされています。インドネシア語は母音が5つで日本語と同じであり、子音の発音も比較的近いものが多いため、インドネシア人は日本語の発音を習得しやすい傾向にあります。実際、介護施設で働くインドネシア人職員の日本語は聞き取りやすいという声が多く、高齢の利用者とのコミュニケーションにおいても大きな支障が生じにくいという特徴があります。ただし、漢字の読み書きには時間がかかるケースがあるため、記録業務においてはICTツールの活用やひらがな表記の導入などの配慮が有効です。
特定技能「介護」の制度概要と最新動向
インドネシア人材を採用するにあたって、まずは特定技能制度の基本を押さえておく必要があります。特定技能は2019年4月に創設された在留資格であり、人手不足が深刻な特定産業分野において、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れることを目的としています。介護分野は制度創設当初から対象分野に含まれており、現在も受け入れが活発に行われています。
特定技能「介護」の基本要件
特定技能1号「介護」の在留資格を取得するためには、外国人本人が以下の要件を満たす必要があります。まず、介護技能評価試験に合格すること。次に、介護日本語評価試験に合格すること。そして、日本語能力試験N4以上、または国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)A2相当以上の日本語能力を有することが求められます。これらの試験はインドネシア国内でも実施されており、来日前に取得することが可能です。
在留期間は通算で最長5年間となっていますが、この期間内に介護福祉士の国家資格を取得すれば、在留資格「介護」へ変更することができます。在留資格「介護」に変更できれば、在留期間の更新に制限がなくなり、家族の帯同も認められるため、長期的なキャリア形成が可能になります。
| 項目 | 特定技能1号「介護」 | 在留資格「介護」 |
|---|---|---|
| 在留期間 | 通算5年 | 更新回数に制限なし |
| 家族帯同 | 不可 | 可能 |
| 必要資格 | 技能試験・日本語試験合格 | 介護福祉士資格 |
2025年4月からの訪問介護解禁
2025年4月21日、特定技能外国人による訪問介護サービスへの従事が解禁されました。これまで特定技能「介護」では施設系サービスのみが対象でしたが、訪問介護分野における深刻な人手不足を受け、制度が改正されたものです。厚生労働省のデータによれば、2022年度の訪問介護員(ホームヘルパー)の有効求人倍率は15.53倍に達しており、介護職全体の約5倍という極端な人手不足状態にありました。
訪問介護に従事するためには、介護職員初任者研修の修了と、介護事業所等での原則1年以上の実務経験が必要です。また、受け入れ事業者には訪問介護の基本事項に関する研修の実施、一定期間の同行訪問によるOJT、キャリアアップ計画の作成、ハラスメント防止マニュアルの整備などが義務付けられています。
受け入れ見込み数の大幅拡大
2024年3月の閣議決定により、特定技能の受け入れ見込み数が大幅に引き上げられました。2024年度から2028年度までの5年間で全分野合計82万人の受け入れが見込まれており、これは以前の34.5万人と比べて約2.4倍の増加です。介護分野においても、受け入れ枠の拡大が進んでおり、今後さらに多くのインドネシア人材が日本の介護現場で活躍することが期待されています。
インドネシア人特定技能人材の採用から入社までの流れ
インドネシア人特定技能人材を採用するプロセスは、複数のステップに分かれています。登録支援機関を活用することで手続きの負担を大幅に軽減できますが、まずは全体の流れを把握しておくことが重要です。
ステップ1:人材募集と選考
人材の募集方法は大きく分けて2つあります。1つは、インドネシア国内にいる人材を現地の送り出し機関を通じて採用する方法。もう1つは、すでに日本国内にいる技能実習生や留学生から特定技能への移行者を採用する方法です。登録支援機関や人材紹介会社を通じて候補者の紹介を受けることが一般的であり、オンライン面接を経て採用を決定するケースが多くなっています。
選考においては、日本語能力や介護への意欲はもちろん、人柄やコミュニケーション能力も重視されます。介護は対人サービスであるため、利用者や他の職員との協調性が求められるからです。インドネシア人材は温厚で明るい性格の人が多いとされており、面接時の印象が良いケースが多いという声もあります。
ステップ2:雇用契約の締結
採用が決まったら、雇用契約を締結します。特定技能外国人の報酬は、同等の業務に従事する日本人と同等以上であることが法令で定められています。つまり、「外国人だから安く雇える」という考え方は通用しません。給与水準については、地域の最低賃金はもちろん、同業他社の水準も考慮して設定する必要があります。特定技能者の平均給与は約20万5,700円というデータがあり、正職員と同等の待遇を提示する施設がほとんどです。
契約書は、外国人本人が理解できる言語(インドネシア語または英語)でも作成することが望ましいとされています。労働条件、就業場所、業務内容、休日、福利厚生などを明確に記載し、双方が納得した上で署名を行います。
ステップ3:在留資格認定証明書の申請
海外から新たに呼び寄せる場合は、出入国在留管理庁に在留資格認定証明書の交付申請を行います。申請には、雇用契約書、1号特定技能外国人支援計画書、受入機関の概要書類など、多くの書類が必要です。審査期間は通常1〜2ヶ月程度ですが、書類に不備があると差し戻しとなり、さらに時間がかかることがあります。登録支援機関に委託することで、書類作成や申請手続きの負担を軽減できます。
ステップ4:ビザ取得と入国
在留資格認定証明書が交付されたら、インドネシアにいる本人に送付します。本人はその証明書を持って在インドネシア日本国大使館または総領事館でビザ(査証)を申請し、取得後に来日します。空港での出迎えや、住居への案内など、来日直後のサポートも受入機関または登録支援機関が行います。
ステップ5:入社後のオリエンテーションと就労開始
入国後は、生活に必要な各種手続き(住民登録、銀行口座開設、携帯電話契約など)のサポートを行います。また、施設での業務オリエンテーション、日本の介護制度や施設のルールの説明、先輩職員による実地指導などを経て、段階的に業務を任せていきます。最初の数ヶ月は日本の職場環境に慣れる期間として、手厚いフォローが必要です。
インドネシア人材受け入れ時に知っておくべき文化・宗教への配慮
インドネシア人材を受け入れる際に最も重要なのが、文化や宗教への理解と配慮です。インドネシアは人口の約87%がイスラム教徒(ムスリム)であり、世界最大のムスリム人口を有する国です。ただし、信仰の自由が憲法で保障されており、キリスト教、ヒンドゥー教、仏教などを信仰する人もいます。採用時に本人の宗教を確認し、必要な配慮について事前に話し合っておくことが円滑な受け入れにつながります。
1日5回の礼拝(お祈り)への対応
イスラム教では1日5回の礼拝が義務付けられています。礼拝の時間帯は、夜明け前、正午過ぎ、午後、日没直後、夜の5回であり、勤務時間中に3回程度の礼拝時間が必要になることがあります。1回の礼拝は5〜10分程度で完了するため、休憩時間を調整したり、空いている個室や更衣室を礼拝スペースとして提供したりすることで対応できます。
大阪市内のサービス付き高齢者向け住宅では、職員用の更衣室の一角に礼拝マットを敷けるスペースを確保し、インドネシア人職員が気兼ねなく礼拝できる環境を整えています。礼拝を終えた後は、より集中して業務に取り組めるという声もあり、業務への支障はほとんどないとのことです。
ラマダン(断食月)期間中の配慮
イスラム暦の9月にあたるラマダン期間中、ムスリムは日の出から日没まで飲食を断ちます。期間は毎年異なりますが、おおむね4月〜6月頃に約1ヶ月間行われます。断食中でも仕事は通常通り行いますが、体力的な負担が大きくなることがあります。入浴介助など負荷の高い業務は可能な範囲で調整する、水分補給を無理に勧めないなどの配慮が求められます。
一方で、断食は本人たちにとって精神的な充実感をもたらす宗教行事でもあります。断食明け(イフタール)の時間には食事を取れるよう休憩を調整してあげると、大変喜ばれます。また、ラマダン明けの大祭「イードゥル・フィトリ」は本人にとって大切な祝日であるため、可能であれば休暇を取得できるよう配慮すると、信頼関係の構築につながります。
ヒジャブ(頭髪を覆う布)の着用
ムスリムの女性は、頭髪や首を覆う「ヒジャブ」を着用することがあります。着用するかどうか、どの程度覆うかは個人の信仰の度合いによって異なりますが、着用を希望する職員に対しては認める姿勢が重要です。介護現場では衛生面の観点から、清潔な素材のヒジャブを使用する、業務中は髪の毛がはみ出ないようにするなどのルールを設けることで、問題なく対応できます。
食事に関するタブー(ハラル対応)
イスラム教では豚肉とアルコールの摂取が禁じられています。食事介助の際に豚肉料理を扱うことについては、手袋を着用すれば問題ないとする人が多いですが、事前に本人に確認しておくと安心です。また、職場の親睦会などでアルコールを勧めることは避けるべきでしょう。社内イベントではノンアルコール飲料を用意するなどの配慮があると、ムスリムの職員も気兼ねなく参加できます。
「ゴム時間」への対応と時間管理の指導
インドネシアでは「ジャム・カレット(ゴム時間)」という言葉があり、時間に対して柔軟な感覚を持つ人が多いとされています。約束の時間に遅れることも珍しくない文化圏から来ているため、日本の時間に対する厳格さには最初は戸惑うことがあります。入職時のオリエンテーションで、日本では時間厳守が非常に重視されること、遅刻は信頼を損なう行為であることを丁寧に説明し、理解を促すことが大切です。実際、日本での就労を真剣に考えているインドネシア人は、この点を理解し適応していく努力を惜しみません。
インドネシア人材の定着率を高めるための施策
外国人材を採用しても、短期間で離職されてしまっては意味がありません。採用コストや教育コストを回収し、戦力として長く活躍してもらうためには、定着率を高める取り組みが不可欠です。ある調査によれば、特定技能介護の全体的な離職率は約10.6%とされていますが、手厚いサポート体制を整えた企業では離職率0.8%という驚異的な数字を達成している例もあります。
明確なキャリアパスの提示
インドネシア人材の多くは、日本で長く働きたいという意欲を持っています。その意欲に応えるためには、入社時点で将来のキャリアパスを明確に提示することが重要です。具体的には、特定技能1号から介護福祉士資格の取得を目指し、在留資格「介護」への変更を支援するロードマップを示します。介護福祉士の受験資格を得るには3年以上の実務経験と実務者研修の修了が必要ですが、施設として研修受講の費用補助や学習時間の確保などを支援することで、本人のモチベーション向上につながります。
継続的な日本語教育の支援
介護現場では、利用者や他の職員との円滑なコミュニケーションが欠かせません。入職時点で日本語能力試験N4レベル以上を有していても、介護特有の専門用語や敬語表現、方言などへの対応には時間がかかります。週に1回程度の日本語学習の時間を設けたり、日本語教育に精通した登録支援機関のサービスを活用したりすることで、着実に日本語力を向上させることができます。日本語検定N2を取得している人材は、記録業務や申し送りも問題なくこなせるレベルであり、採用時にN2保持者を優先的に選定することも一つの方法です。
生活面でのサポート体制
外国人が日本で安心して働くためには、仕事面だけでなく生活面でのサポートも重要です。住居の確保や契約手続きの支援、銀行口座の開設、携帯電話の契約、ゴミの分別ルールの説明など、日本人にとっては当たり前のことでも、外国人には分かりにくいことが多々あります。特定技能制度では、受入機関に対してこれらの生活支援が義務付けられていますが、登録支援機関に委託することで、専門的なノウハウを活かした手厚いサポートを受けられます。
相談しやすい環境づくり
インドネシア人は人前で叱られることを強い侮辱と感じる傾向があります。イスラム教の教えでは、怒りは耐え忍んで抑えることが推奨されており、怒りを他人にぶつけることは好ましくないとされているためです。日本の職場で何か問題があった場合でも、人前で叱責するのではなく、個別に呼んで落ち着いた環境で話し合うようにしましょう。また、定期的な面談の機会を設け、仕事や生活で困っていることはないか、気軽に相談できる関係性を構築することが大切です。
同郷の仲間との交流機会
母国を離れて日本で働くことは、精神的な負担が大きいものです。同じ施設や近隣施設で働くインドネシア人同士の交流会を企画したり、インドネシアの祝日に合わせてイベントを開催したりすることで、孤独感を軽減し、モチベーションを維持する効果があります。SNSを活用したオンラインコミュニティも、同郷の仲間とつながる有効な手段となっています。
インドネシア人材採用にかかる費用と助成金の活用
外国人材の採用を検討する際、多くの経営者が気になるのが費用面です。ここでは、インドネシア人特定技能人材の採用に関する費用の目安と、活用できる助成金制度について解説します。
採用にかかる主な費用
特定技能人材の採用にかかる費用は、人材紹介手数料、在留資格申請手数料、渡航費、住居の初期費用などが主なものです。厚生労働省の調査によれば、登録支援機関に支払う費用の総額平均は約39万6,000円というデータがあります。ただし、この金額は人材紹介会社や送り出し機関によって異なり、20万円台から60万円台まで幅があります。
また、入社後も登録支援機関への支援委託費用が月額1万5,000円〜3万円程度かかるのが一般的です。一方で、登録支援機関によっては採用決定まで完全無料のサービスを提供しているところもあり、比較検討することで費用を抑えることも可能です。
| 費用項目 | 金額目安 |
|---|---|
| 人材紹介手数料 | 20万円〜50万円 |
| 在留資格申請代行費用 | 5万円〜15万円 |
| 渡航費・来日サポート | 10万円〜20万円 |
| 住居初期費用(敷金・礼金等) | 10万円〜30万円 |
| 月額支援委託費用 | 1.5万円〜3万円/月 |
活用できる助成金・補助金
外国人材の採用・定着に活用できる助成金制度もあります。代表的なものとして、人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)があり、外国人労働者の就労環境整備(通訳費用、翻訳費用、多言語マニュアル作成費用など)に対して最大72万円が支給されます。また、キャリアアップ助成金を活用して、特定技能外国人の正社員化や処遇改善を行うことも可能です。助成金の要件や申請方法は随時変更されるため、最新情報は厚生労働省のウェブサイトや社会保険労務士に確認することをお勧めします。
費用対効果の考え方
外国人材の採用には一定の初期費用がかかりますが、日本人の採用が困難な状況を考えると、費用対効果は決して悪くありません。求人広告を何度出しても応募がない、人材紹介会社を使っても紹介がないという状況が続けば、機会損失はどんどん膨らんでいきます。また、インドネシア人材は5年間の在留期間があり、介護福祉士を取得すればさらに長期の雇用が可能です。長期的な視点で見れば、安定した人材確保につながる投資と捉えることができます。
インドネシア人材受け入れ成功事例
ここでは、実際にインドネシア人材を受け入れて成功している介護施設の事例を紹介します。他施設の取り組みを参考に、自施設での受け入れ体制構築に役立ててください。
事例1:兵庫県の特別養護老人ホーム
兵庫県内の特別養護老人ホームでは、2022年からインドネシア人特定技能人材を3名採用し、現在も全員が継続して勤務しています。施設長によれば、成功のポイントは「最初の3ヶ月間の手厚いサポート」にあるといいます。来日直後は週1回の面談を実施し、仕事や生活の不安を丁寧にヒアリング。日本人のメンター職員を1対1で付け、業務面でも精神面でも相談できる環境を整えました。
また、ラマダン期間中は日勤帯のシフトを中心に組み、日没後に食事が取れるよう休憩時間を調整。礼拝スペースとして空き部屋を活用し、礼拝マットも施設で用意しました。利用者からも「いつも笑顔で優しい」と好評であり、施設の雰囲気も明るくなったという声があります。
事例2:大阪市内のデイサービス
大阪市内のデイサービス事業所では、技能実習から特定技能に移行したインドネシア人職員が、入職4年目で介護福祉士の国家試験に合格しました。施設では介護福祉士試験対策の勉強会を毎週開催し、過去問題の解説やレポート添削などを日本人職員がボランティアで行いました。本人の努力はもちろんですが、施設全体で資格取得を応援する雰囲気が合格につながったと、施設長は振り返ります。
現在この職員は在留資格「介護」に変更し、サービス提供責任者を目指して研鑽を積んでいます。後から入職したインドネシア人の後輩たちにとっても良いロールモデルとなっており、「自分も介護福祉士を取りたい」という意欲が高まっているそうです。
事例3:和歌山県の訪問介護事業所
2025年4月の訪問介護解禁を受け、和歌山県の訪問介護事業所では、特別養護老人ホームで2年間の経験を積んだインドネシア人職員を採用しました。最初の3ヶ月間は日本人職員が必ず同行し、利用者宅での介助方法やコミュニケーションの取り方を実地で指導。ICTツールを活用し、緊急時にはビデオ通話で事業所からサポートできる体制も整えました。
利用者への事前説明も丁寧に行い、「外国人のヘルパーさんが来ても大丈夫かしら」という不安に対しては、本人の経歴や日本語能力、研修状況などを具体的に説明することで安心感を得られたといいます。実際にサービスが始まると、「丁寧で気持ちがいい」「娘みたいで話が弾む」と好意的な反応が多く、予想以上にスムーズに受け入れられています。
インドネシア人材を採用する際の注意点とよくある失敗
インドネシア人材の採用には多くのメリットがありますが、一方で注意すべき点や、よくある失敗パターンも存在します。事前に把握しておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
注意点1:IPKOL・SISKOTKLNへの登録
インドネシア人を特定技能「介護」で受け入れる際には、インドネシア共和国労働省のシステムへの登録手続きが推奨されています。IPKOL(労働市場情報システム)は、インドネシア国外の求人情報を掲載するサイトであり、SISKOTKLN(海外労働者管理サービスシステム)は、海外で働くインドネシア人が登録するシステムです。登録支援機関を通じて採用する場合は、これらの登録は不要とされていますが、直接採用する場合は手続きが必要となる場合があります。詳細は登録支援機関や行政書士に確認することをお勧めします。
注意点2:宗教への無理解によるトラブル
イスラム教への理解不足が原因でトラブルになるケースがあります。礼拝の時間を認めない、ラマダン中に食事を強要する、豚肉料理を無理に食べさせようとするなどの行為は、本人にとって大きなストレスとなり、離職の原因になりかねません。また、ヒジャブの着用を禁止するなど、宗教的なアイデンティティを否定するような対応も避けるべきです。事前に本人の信仰について確認し、どのような配慮が必要かを話し合っておくことが重要です。
注意点3:コミュニケーション不足による孤立
外国人職員を採用したものの、日本人職員とのコミュニケーションがうまくいかず、職場で孤立してしまうケースがあります。日本人職員側に「言葉が通じにくいから話しかけにくい」「何を話したらいいかわからない」という意識があると、外国人職員は疎外感を感じてしまいます。受け入れ前に日本人職員への研修を行い、異文化理解やコミュニケーションの取り方について共有しておくことが大切です。また、職場のイベントや食事会に積極的に誘い、業務以外でも交流できる機会を設けると、職場への帰属意識が高まります。
よくある失敗:「外国人だから何でもできる」という誤解
外国人材を採用すれば人手不足が解消すると考え、十分な教育やサポートなしに即戦力として現場に投入してしまう施設があります。しかし、特定技能1号の要件を満たしていても、日本の介護現場での経験がない場合、日本人の新人と同様に丁寧な指導が必要です。介護技術はもちろん、記録の書き方、申し送りの仕方、利用者への接し方など、施設ごとのルールを一から教える姿勢が求められます。「せっかく採用したのに戦力にならない」という不満は、受入側の準備不足が原因であることがほとんどです。
他の在留資格との比較:特定技能を選ぶメリット
インドネシア人が介護職として日本で働くための在留資格は、特定技能以外にも複数存在します。それぞれの特徴を理解し、自施設に最適な採用ルートを選択することが重要です。
EPA(経済連携協定)による受け入れ
日本とインドネシアの間では、2008年から経済連携協定(EPA)に基づく介護福祉士候補者の受け入れが行われています。EPA候補者は、4年間の在留期間中に介護福祉士の国家資格取得を目指します。資格を取得できれば在留資格「介護」に変更可能ですが、取得できない場合は原則帰国となります。受け入れには国際厚生事業団(JICWELS)を通じた手続きが必要であり、2025年度の受け入れにかかる合計費用は約58万3,400円とされています。また、候補者への日本語研修や学習支援も受入機関の責務となるため、中小規模の施設にとってはハードルが高い面があります。
技能実習「介護」との違い
技能実習制度は、発展途上国への技術移転を目的とした制度であり、2017年から介護職種が追加されました。最長5年間の実習が可能ですが、原則として転職ができず、実習先の施設でのみ働くことになります。監理団体を通じた受け入れが必要であり、監理費用が継続的にかかります。一方、特定技能は労働力確保を目的とした制度であり、同一分野内であれば転職が可能です。外国人本人にとっては自由度が高く、受入機関にとっては「選ばれる職場」であることが求められます。
特定技能を選ぶ3つのメリット
特定技能を選ぶメリットは大きく3つあります。まず、即戦力を確保できること。技能試験と日本語試験に合格した人材であるため、基本的な介護知識と日本語能力を有しています。次に、手続きが比較的シンプルであること。EPAのような複雑な選考プロセスや、技能実習のような監理団体への加入が必要ありません。そして、最長5年間という在留期間があること。教育投資を回収するのに十分な期間があり、介護福祉士取得による長期雇用への道も開かれています。
登録支援機関の選び方と活用のポイント
特定技能外国人を受け入れる場合、登録支援機関を活用することで、採用から定着までのサポートを一括して任せることができます。ただし、登録支援機関の質は千差万別であり、適切な機関を選ぶことが受け入れ成功の鍵となります。
登録支援機関選びのチェックポイント
まず確認すべきは、介護分野での支援実績です。特定技能は分野ごとに求められる知識やノウハウが異なるため、介護分野に精通した機関を選ぶことが重要です。次に、インドネシア人材との実績があるかどうか。インドネシア特有の文化や宗教への理解がある機関であれば、よりきめ細やかなサポートが期待できます。また、支援内容と費用の透明性も重要なポイントです。契約前に、どのような支援が含まれるのか、追加費用が発生するケースはあるのかを明確に確認しましょう。
登録支援機関が提供する主なサービス
登録支援機関が提供するサービスは多岐にわたります。入国前の段階では、人材紹介、雇用契約書の作成支援、在留資格申請の代行などを行います。入国後は、空港への出迎え、住居への案内、役所手続きの同行、生活オリエンテーションの実施などの生活支援を提供します。就労開始後も、定期的な面談、日本語教育の支援、トラブル発生時の対応、在留資格更新の手続きなど、継続的なサポートを行います。これらのサービスを自社で全て行うことも制度上は可能ですが、専門知識と人的リソースが必要なため、多くの施設が登録支援機関への委託を選択しています。
まとめ:インドネシア人特定技能人材の採用は今がチャンス
本記事では、インドネシア人特定技能人材の採用について、制度の概要から採用の流れ、文化・宗教への配慮、定着施策、費用、成功事例まで幅広く解説してきました。要点を改めて整理します。
- インドネシア人は特定技能「介護」分野で国籍別最多であり、2024年12月末時点で介護分野全体の外国人は44,367人に達している
- 「ゴトン・ロヨン」に代表される相互扶助の精神、若い労働力、日本語習得の適性など、介護職に適した特性を持つ
- 2025年4月から訪問介護への従事が解禁され、活躍の場がさらに広がっている
- イスラム教徒が多いため、礼拝、ラマダン、ヒジャブ、食事のタブーなど、宗教への配慮が円滑な受け入れの鍵となる
- 明確なキャリアパスの提示、日本語教育の支援、生活面のサポート、相談しやすい環境づくりが定着率向上に効果的
- 登録支援機関を活用することで、採用から定着までの手続き・支援の負担を大幅に軽減できる
日本の介護業界における人手不足は、今後さらに深刻化することが確実視されています。2040年度には約272万人の介護職員が必要とされる中、国内人材だけでその需要を満たすことは極めて困難です。インドネシア人をはじめとする外国人介護人材の活用は、もはや選択肢の一つではなく、事業継続のための必須戦略といえるでしょう。
執筆者コネクトナビ編集部
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